キャリアを振り返ってみたら、職種より変わっていないものがあった

子どもの頃、科学者になりたいと思っていた。

きっかけの一つは、祖父の死だった。

当時の私は、医療にできるのは、その時点で存在している治療や技術を使うことだと思っていた。一方で科学者なら、その先で使える新しい選択肢をつくれるかもしれない。

今振り返ればかなり単純な理解だが、それが科学者を目指した理由の一つだった。

大学では農学系の学部で生物学を学び、その後、大学院では工学系研究科で分子生物科学を専攻した。

ただ、研究を続けるのではなく、科学や技術が社会へ届くところにもっと近づきたいと思い、医療機器メーカーに就職した。

最初は営業だった。その後、営業企画、経営企画、グローバルマーケティングと仕事は変わった。

就職から15年ほど経った頃には、今度は経営を学ぶためにMBAにも通った。

MBAを終えた後には、ありものリンクを立ち上げた。今は本業とは別にCFOとして中小企業の経営に関わり、このコラムも書いている。

こうして並べると、扱っているものはかなり変わってきた。

生物を見ていた頃から、市場や事業、会社の数字を考えるようになり、自分でも経営する側に回った。

最近、エドガー・H・シャインの『キャリア・アンカー』を読んだ。

キャリア・アンカーは、「どんな仕事に向いているか」を判定するだけのものではない。これまでの経験や選択を振り返りながら、自分が仕事をするうえで何を大事にし、何を手放したくないのかを考えるための枠組みだ。

質問票に答えながら、自分がどの分類に当てはまるかよりも、これまで何を面白いと思って仕事をしてきたのかが気になった。

考えてみると、新しい事業を検討するときも、数字を見ながら事業計画を考えるときも、私は答えが決まっている仕事より、まだ答えがない仕事の方に惹かれる。

情報を集め、自分なりの説明をつくる。その説明で本当に辻褄が合うのかを確かめ、違う事実が出てくれば考え直す。

まだ答えがないものを前にして、自分なりの説明をつくること。

そして、その説明が本当に合っているのかを確かめること。

たぶん私は、そこが好きだった。

もちろん、これは科学者だけがすることではない。

経営企画でも、営業でも、事業開発でも、CFOでも、似たようなことはしている。科学を学んだから今の仕事のやり方になった、と言うつもりもない。

それでも、『キャリア・アンカー』を読みながら過去を振り返ってみると、「科学者になる道を離れた」という自分の理解が少し変わった。

職種も、立場も、扱う対象も変わっている。

『キャリア・アンカー』を読んで分かったのは、自分がどのタイプなのかということ以上に、職種や立場が変わっても、なぜか手放さずにきたものがあったということだった。

まだ答えがないものについて考え、自分なりの仮説をつくり、それが本当に合っているのかを確かめる。

振り返ってみれば、それが私にとっての「アンカー」の一つだったのかもしれない。

参考文献

エドガー・H・シャイン 著、金井壽宏 訳『キャリア・アンカー―自分のほんとうの価値を発見しよう』白桃書房、2003年。

次回予告

次回は、「システムがないから進まない」と思っていた仕事を、自分で触ってみたら見え方が変わった経験について書く予定です。

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