同じ10%なのに、会社の中身はまるで違う。ROEを3つに分けてみる
PBR0.8倍という同じ数字でも、
PBR = ROE × PER
と分けると、ROE4%・PER20倍の会社と、ROE10%・PER8倍の会社では、次に確認したくなることが違う。
では、そのROEが同じ10%なら、会社の中身まで似ているのだろうか。
もちろん、そんなことはない。
今回は、ROEをもう一段だけ分けてみたい。
そもそもROE10%とは何か
ROE(自己資本利益率)は、自己資本に対してどれだけ当期純利益を生み出したかを見る指標だ。
ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本
自己資本100億円に対して純利益10億円なら、ROEは10%になる。
ただ、この10%だけでは、その利益がどのように生まれたのかまでは分からない。
そこで使えるのが、デュポン分解だ。
ROEを次の3つに分ける。
ROE = 売上高当期純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
それぞれを式にすると、
売上高当期純利益率 = 当期純利益 ÷ 売上高
総資産回転率 = 売上高 ÷ 総資産
財務レバレッジ = 総資産 ÷ 自己資本
となる。
実際の分析では総資産や自己資本に期中平均残高を使うこともあるが、ここでは違いを見ることが目的なので、計算を単純にして考える。
ROE10%の会社を3つ作ってみる
ROEがすべて10%になる3社を作ってみた。
| A社 | B社 | C社 | |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 100億円 | 200億円 | 100億円 |
| 当期純利益 | 10億円 | 8億円 | 5億円 |
| 総資産 | 125億円 | 100億円 | 100億円 |
| 自己資本 | 100億円 | 80億円 | 50億円 |
| 売上高当期純利益率 | 10% | 4% | 5% |
| 総資産回転率 | 0.8回 | 2.0回 | 1.0回 |
| 財務レバレッジ | 1.25倍 | 1.25倍 | 2.0倍 |
| ROE | 10% | 10% | 10% |
A社は、
10% × 0.8 × 1.25 = 10%
B社は、
4% × 2.0 × 1.25 = 10%
C社は、
5% × 1.0 × 2.0 = 10%
になる。
ROEという最後の一列だけを見ると、3社は同じだ。
でも、ここまで分けると、私にはかなり違う会社に見えてくる。
A社なら、まず利益率の理由を知りたい
A社は3社の中で利益率が最も高い。
だからといって、「収益力の高い優良企業」と決めるには早い。
私なら次に、なぜ10%の利益率を取れているのかを見る。
価格が高いのか。原価が低いのか。商品構成が違うのか。販売管理費が少ないのか。
そして、その状態は続くのか。
一時的な要因で利益率が上がっているだけかもしれないし、競争相手が簡単には真似できない理由があるのかもしれない。
ROE10%から「利益率10%」まで分けることで、ようやく次の質問が具体的になる。
B社なら、資産がどう回っているのかを見る
B社の利益率は4%だ。
A社より低いが、総資産回転率は2回ある。100億円の資産で200億円を売り上げている。
その結果、ROEはA社と同じ10%になった。
この会社なら、私は利益率だけを見て「もっと上げるべきだ」とはすぐに考えない。
なぜ100億円の資産で200億円を売り上げられるのか。
在庫が少ないのか。設備をあまり持たない事業なのか。売掛金の回収が速いのか。そもそも資産を多く必要としないビジネスモデルなのか。
逆に、この回転率を維持するために何か無理をしていないかも確認したい。
ここでも、数字を分けたことで質問が変わる。
C社なら、バランスシートへ目が向く
C社は利益率5%、総資産回転率1回だ。
この二つだけなら、
5% × 1回 = 5%
になる。
そこに財務レバレッジ2倍が掛かって、ROE10%になっている。
ここを見ると「借金が多い会社」と言いたくなるが、そう単純でもない。
ここで使っている財務レバレッジは、
総資産 ÷ 自己資本
だからだ。
負債には借入金だけでなく、買掛金なども含まれる。2倍という数字だけでは、負債の中身までは分からない。
だからC社なら、まずバランスシートを見る。
有利子負債はいくらあるのか。短期借入金や1年内返済予定の長期借入金がどの程度を占めているのか。手元の現預金とのバランスはどうか。
そこから必要に応じて、損益計算書で支払利息を確認したり、キャッシュフロー計算書や借入金の注記まで見たりする。
財務レバレッジが高いこと自体を、良いとも悪いともまだ判断しない。
ここでも、ROE10%は答えではなく、その先を見る入口になる。
分解しても、答えは出ない
3社を比べてみても、
A社が一番いい。
B社を目指すべきだ。
C社には問題がある。
とは言えない。
分かったのは、それぞれ次に見る場所が違うということだけだった。
A社なら利益率の背景。
B社なら資産効率の背景。
C社なら資本構成と負債の中身。
さらに見ていけば、それぞれの違いには業種やビジネスモデルも大きく影響しているはずだ。
異なる業種の会社について、利益率や資産回転率だけを横に並べて優劣をつけても意味は薄い。
デュポン分解をしても、会社の答えが出るわけではなかった。
私にとっては、次にどこを調べればよいのかを決める作業に近い。
数字を分けた先に、資本配分という問いが残る
ここまで2回にわたって、
PBRをROEとPERに分け、
今回はROEを利益率、資産回転率、財務レバレッジに分けた。
数字を細かくしていけば、会社のことがすべて分かるわけではない。
むしろ分解するたびに、次の問いが出てくる。
今回、ROEの式をたどりながら次に気になったのは、
会社が持っている資本や資産を、そもそもどこへ振り向けようとしているのか。
東京証券取引所は2026年4月、「資本コストや株価を意識した経営」に関する要請をアップデートした。その中心に置かれたのが「経営資源の適切な配分」だった。
さらに7月には、コーポレートガバナンス・コードも改訂された。
ROEの数字を分けていたはずなのに、その先には「資本をどう配るのか」という問いが残った。
次回予告
コーポレートガバナンス・コードは、なぜ「成長の道筋」と資源配分を問うのか
2026年7月、コーポレートガバナンス・コードが改訂された。
次回は改訂項目を順番に解説するのではなく、今回のROE分析の続きとして読んでみたい。
企業に求められている「成長の道筋」とは何なのか。
なぜ取締役会に、成長投資や事業ポートフォリオを含む経営資源の配分を検証することが求められているのか。
数字を分解した先で見えてきた「資本をどこへ振り向けるか」という問いから、今回のコード改訂を考える。

