コーポレートガバナンス・コードとは?中小企業にも使える経営資源配分の考え方
これまで、「PBR1倍割れ」で止まらない。数字を分けると、次に調べることが変わるでPBRをROEとPERに分け、同じ10%なのに、会社の中身はまるで違う。ROEを3つに分けてみるでROEを利益率、資産効率、財務レバレッジに分けてみた。
数字を分けると、「ROEが低い」という一つの問題が、「利益率を見るのか」「資産の使い方を見るのか」「財務構造を見るのか」という次の問いに変わる。
ただ、その先で引っかかる。
では、会社は何をすればいいのだろう。
利益率が低いと分かっても、研究開発を増やすのか、不採算事業から撤退するのか、営業人員を増やすのかまでは数字からは出てこない。
資産効率が低くても、使っていない資産を減らせばよいとは限らない。数年後の成長に必要な資産なら、今の効率だけで判断するのは危うい。
数字を分解した先では、人、金、設備、研究開発、事業といった経営資源をどこへ配るのか、という別の問いが残る。
そんな視点で、2026年7月に改訂された「コーポレートガバナンス・コード」を読んでみた。
上場企業のルールを、中小企業が読む意味はあるのか
コーポレートガバナンス・コードという言葉は、ニュースなどで耳にする機会がある。
とはいえ、中小企業の経営者からすれば、「上場企業の話でしょう」と感じるのも自然だと思う。
実際、コーポレートガバナンス・コードは東京証券取引所の上場会社を対象とした原則で、持続的な成長や中長期的な企業価値向上に向けて、株主との関係、情報開示、取締役会の役割などについて基本的な考え方を示している。[1]
プライム市場とスタンダード市場の上場会社は、すべての原則について、実施しないものがあれば理由を説明することが求められる。[1]
ここだけを見ると、未上場企業にはあまり関係がないように見える。
ただ、2026年の改訂を読むと、少し違う見方もできる。
今回の改訂では、企業が自ら「成長の道筋」を示し、その実現に向けて成長投資や事業ポートフォリオの見直しなど、経営資源をどう配分するのかを具体的に説明することが盛り込まれている。[2][3]
さらに、いまの資源配分が経営戦略や経営計画に照らして適切なのかを、継続的に検証する考え方も示されている。[3]
私が気になったのは、ここだった。
「成長の道筋」と「経営資源の配分」が並んでいる。
単に「もっと投資しましょう」という話ではない。
どこへ向かいたいのかを考え、そのために実際に人や金をどこへ置くのかを見る。
この問いなら、上場企業だけの話とも言い切れないように思う。
「どうしたいか」があっても、それだけでは決まらない
私が接してきた比較的小さな会社では、「会社をどうしたいですか」と聞くと、かなり具体的な答えが返ってくることがある。
「あと1店舗出したい」
「この地域では一番になりたい」
経営者本人の意思が見えやすいのは、一つの強さだと思う。
一方で、「なぜもう1店舗なのか」「その先にどんな会社にしたいのか」と考えると、まだ掘れることもある。
反対に、大きな組織では「持続的成長」「社会課題の解決」「企業価値向上」といった長期を意識した言葉をよく目にする。
どれも間違ってはいない。
ただ、多くの人で意思決定するほど、誰も反対しにくい言葉は残りやすく、
何をやめるのか。
何に人を増やすのか。
何に金を使うのか。
という具体的な選択が曖昧になることもあるように感じる。
だからといって、合議制そのものが悪いとは思わない。
大型投資ほど失敗時の影響は大きく、従業員、顧客、取引先、株主など多くの関係者もいる。一人の意思だけで会社を動かせないことには合理性がある。
それでも、議論を重ねた結果として「誰も強く反対しない未来」だけが残り、実際の資源配分につながっていないのなら、一度見直す余地はありそうだ。
「正しい配分」より、未来とのズレを見る
では、どんな経営資源の配分が正しいのか。
ここには簡単な答えはなさそうだ。
研究開発費を増やせば成長するとも、現預金を減らせば企業価値が上がるとも限らない。
2026年の改訂をめぐる議論でも、経営資源の配分は経営者が中長期の視点から判断する領域であり、現預金など一つの項目を強調しすぎることで、短期的な株主還元に偏ることを懸念する意見が出ている。
一方で、設備、研究開発、人的資本、知的財産など、多様な投資機会を踏まえて資源を配分する必要性も議論されている。[3]
そう考えると、外から「この配分が正解」と点数をつけるより、別の見方が使えそうに思う。
会社が掲げている未来と、実際の人・金・時間の置き場所はつながっているだろうか。
たとえば、
- 「この事業を成長させる」と言いながら、そこに人も金もほとんど置いていない
- 「選択と集中」を掲げながら、すべての事業に薄く資源を配っている
- 「長期成長」を語りながら、短期利益を守るために将来への投資から削っている
これだけを見て、「その会社は間違っている」とは言えない。何か事情があるかもしれない。
ただ、言葉と資源配分にずれが見えたなら、
「なぜ、ずれているのか」
を次に調べることはできる。
ここは、PBRやROEを分解したときと似ている。
数字を分解するのも、会社に点数をつけるためではなく、次に何を調べるのかを見つけるためだった。
経営資源の配分も、同じように企業を見る切り口にできそうに思う。
中小企業なら、「問い」だけ借りればいい
コーポレートガバナンス・コードそのものを、中小企業が導入する必要はない。
上場企業とは所有構造も組織も違う。
でも、
「どんな会社にしたいのか」
「その未来に向けて、実際に何へ資源を使っているのか」
という問いまで、上場企業だけのものとは限らない。
来期の予算を決めるとき。
採用を考えるとき。
新しい店舗や設備へ投資するとき。
新規事業を続けるか迷うとき。
「この会社を3年後、5年後にどうしたいのか」
「いま決めようとしている人・金・時間の使い方は、そこにつながっているか」
と並べてみる。
それだけでも、判断の見え方は少し変わるかもしれない。
PBRを分け、ROEを分けてみた先で、数字だけでは決められないところまで来た。
数字は、どこを調べるべきかを教えてくれる。
でも、どこへ行きたいのかまでは決めてくれない。
考えている未来と、実際の資源配分はつながっているだろうか。
これは企業を見るときだけでなく、自分自身の時間やお金の使い方についても残る問いになっている。
次回予告
今回は、株式市場やガバナンスの側から「成長の道筋」と「経営資源の配分」を見てみた。
次回は「骨太方針2026」を読みながら、国内投資、生産性向上、賃上げといった政策上の論点が、民間企業の経営とどう関係するのかを考えてみたい。
市場やガバナンスからの要請と、政府の政策は同じものではない。並べてみると、企業へ作用する経路の違いも見えてきそうだ。
参考資料
[1] 日本取引所グループ「コーポレートガバナンス・コード」
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/
[2] 金融庁「コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定について」2026年7月21日
https://www.fsa.go.jp/news/r7/singi/20260721.html
[3] 金融庁「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議(令和7年度第2回)議事録」2026年2月26日
https://www.fsa.go.jp/singi/revision_corporategovernance/gijiroku/260226.html

