PBR1倍割れとは?ROE・PERに分けると、次に見るべきことが変わる
最近、企業経営の記事を読んでいると、「PBR1倍割れ」という言葉をよく見かける。
東京証券取引所は2023年から、上場企業に「資本コストや株価を意識した経営」を求めている。2026年4月には、その内容を更新し、「経営資源の適切な配分」を改めて重視する姿勢も示した。
ただ、その前に気になることがある。
PBR1倍割れとは、そもそも何を意味しているのだろう。
例えば、ある上場会社があるとする。
会社の貸借対照表を見ると、株主が持つ持分、つまり純資産が100億円ある。
一方、株式市場でその会社全体につけられている値段、いわゆる時価総額も100億円だったとする。
この場合、
100億円 ÷ 100億円 = 1倍
になる。
これがPBR1倍だ。
PBRは日本語では「株価純資産倍率」と呼ばれる。
名前だけ聞くと難しいが、
会社の純資産に対して、株式市場が何倍の値段をつけているか
を見る数字だと考えればいい。
同じ会社の時価総額が80億円なら、
80億円 ÷ 100億円 = 0.8倍
となる。
これがPBR0.8倍だ。
つまり、帳簿上100億円の純資産がある会社に対して、株式市場では会社全体に80億円の値段がついている状態になる。
問題は、その次だ。
PBRが0.8倍だと分かっても、なぜ0.8倍なのかは、まだ分からない。
私はこういう数字を見ると、良いか悪いかをすぐ判断するより、まず「この数字は何からできているのか」と分けてみることが多い。
PBRを式にすると、二つの数字に分けられる
PBRは、数学的には次のように表すことができる。
PBR = ROE × PER
いきなり略語が二つ増えたので、先ほどの100億円の会社をそのまま使って式をたどってみる。
この会社の純資産は100億円だった。
ここから1年間で4億円の利益を出していたとする。
100億円の株主資本を使って4億円の利益を出したので、
4億円 ÷ 100億円 = 4%
となる。
これがROE、「自己資本利益率」だ。
言い換えると、
株主のお金を使って、どれくらい利益を生み出したか
を見る数字になる。
次にPERを考える。
この会社には株式市場で80億円の値段がついている。
年間利益は4億円なので、
80億円 ÷ 4億円 = 20倍
となる。
これがPER、「株価収益率」だ。
こちらは、
現在の利益に対して、市場が何倍の値段をつけているか
を見る数字だと考えると分かりやすい。
ここで二つを掛けてみる。
ROEは4%、つまり0.04。
PERは20倍。
0.04 × 20 = 0.8
最初に出てきたPBR0.8倍に戻った。
実際の財務データでは、ROEに期首と期末の平均自己資本を使うなど、計算方法によって完全には一致しないこともある。ただ、PBRがどんな要素から成り立っているかを理解するには、この式が分かりやすい。
つまりPBRは、大きく分ければ、
その会社が株主のお金からどれだけ利益を生んでいるか
と、
その利益に市場がどのくらいの値段をつけているか
の組み合わせとして見ることができる。
ここまで分けると、PBR0.8倍という一つの数字が少し違って見えてくる。
同じPBR0.8倍でも、二つの会社はかなり違う
もう一社つくってみる。
A社は、
- 純資産100億円
- 利益4億円
- 時価総額80億円
とする。
すると、
- ROEは4%。
- PERは20倍。
- PBRは0.8倍。
一方のB社は、
- 純資産100億円
- 利益10億円
- 時価総額80億円
だったとする。
こちらは、
- ROEが10%。
- PERが8倍。
- PBRは同じ0.8倍。
A社もB社も、「PBR1倍割れ企業」とまとめることはできる。
でも、私はこの二社を見たとき、同じことを調べようとは思わない。
A社は、100億円の株主資本を使って4億円の利益を生み出している。
ここではまず、
- なぜ利益が4億円なのか。
- 商品の利益率が低いのか。
- 売上そのものが少ないのか。
- 工場や設備などの資産を十分に使えていないのか。
- 事業で使う予定のない現金を多く持っているのか。
と、会社の中でどう利益を生み出しているのかを見たくなる。
ところがB社は違う。
100億円の資本から10億円の利益を生み出している。
それでも会社全体についた値段は80億円しかない。
すると私は、
- 今の10億円という利益は来年以降も続くのだろうか。
- この先、利益が増える余地はあるのだろうか。
- 特定の事業や顧客への依存が大きくないか。
- 市場が何か大きなリスクを見ているのではないか。
といったことが気になってくる。
もちろん、ここまで見ても原因はまだ分からない。
でも、
次に何を調べるべきかは、A社とB社で明らかに違う。
私はここが重要だと思っている。
PBRが低いだけでは、どこを直せばいいか分からない
例えば、経営会議で、
「うちのPBRは0.8倍です」
という数字が示されたとする。
それだけでは、経営として何を変えればいいのかは分からない。
A社のように、そもそも資本に対して十分な利益を生み出せていないのか。
B社のように、利益は出しているのに、その利益の将来性やリスクを市場から厳しく見られているのか。
この二つでは、考えるべきことが違う。
だから私なら、
「どうすればPBRを1倍以上にできるか」を考える前に、「この0.8倍は、どんな数字の組み合わせでできているのか」を確認する。
まずそこから始める。
ただし、ROEとPERに分ければ原因が分かるわけでもない
ここまで読むと、
「ではROEが低い会社は利益を増やし、PERが低い会社は市場からの評価を上げればいい」
と思うかもしれないが、そこまでは単純ではない。
ROEが低くなる理由だけでも複数ある。
利益率が低いこともあれば、資産をうまく使えていないこともある。
逆にROEが高くても、資本構成によって数字の見え方が変わることもある。
PERも同じ。将来の成長への期待だけで決まるものではない。
- 利益がどれだけ安定しているか。
- 事業にどんなリスクがあるか。
- 投資家がその会社へ投資するなら、どのくらいの収益率を求めるか。
さまざまな要素が株価に反映されている。
つまり、PBRをROEとPERに分けるだけでは、会社の課題は特定できない。それでも分ける意味はある。
次にどこを調べるべきかを絞れるからだ。
PBR0.8倍という数字だけなら、
「市場からの評価が低い」
というところで止まる。
ROEとPERに分けると、
「まず会社の稼ぐ力を詳しく見た方がよさそうだ」
あるいは、
「利益は出ている。では、その利益の将来性やリスクを市場がどう見ているのかを調べよう」
と、次の一手が変わる。
中小企業なら、「結果」をそのまま眺めない
ここまでのPBRの話は、基本的に上場企業の話。
PBRには市場でついた株価が必要なので、株価のない非上場企業に同じ指標をそのまま当てはめることはできない。
もちろん、中小企業も外部から評価される場面はある。
銀行から融資を受けるときには、返済できる会社かどうかを見られる。
M&Aや事業承継では、会社や株式の価値を評価することもある。
ただし、銀行の融資判断と株式市場の企業評価は目的が違う。同じ話として扱うべきではない。
それでも、今回のPBRの分解から中小企業にも持ち帰れる考え方はあると思う。
例えば、
「利益が減った」
という結果が出たとする。
そこで、
「利益を増やさなければ」
だけで終わってしまうと、何をすればよいかは分からない。
- 売上が減ったのか。
- 販売単価が下がったのか。
- 原材料費が上がったのか。
- 人件費が増えたのか。
- 一時的な費用が発生したのか。
同じ「利益が減った」でも、理由によって打ち手は変わる。
借入金が増えた場合でも同じだ。
- 設備投資のために借りたのか。
- 運転資金が足りなくなったのか。
- 売掛金の回収が遅くなったのか。
- 在庫が増えたのか。
数字を一段分ければ、次に確認する場所が変わる。
PBRについて考えていて、私が改めて感じたのはこのことだった。
一つの数字だけを見て改善策を考えるのではなく、その数字が何からできているのかを一度分けてみる。
財務分析で数字を分ける意味は、いきなり答えを出すことではない。
「数字が悪い。何とかしよう」という状態から、「まずここを調べよう」という状態へ進むこと。
今回、一番言いたかったのはそこになる。
次回予告|同じROE10%でも、中身は同じではない
今回は、PBRをROEとPERに分けてみた。ただ、そのROEもまだ一つの数字にすぎない。
同じROE10%でも、
- 利益率が高くて10%なのか。
- 持っている資産を効率よく使って10%なのか。
- 資本構成の違いによって10%になっているのか。
では、会社の姿はかなり違って見える。
次回は、ROEをさらに三つに分ける「デュポン分解」を使って、同じROE10%の会社を比べると、何が見えてくるのかを考えてみたい。
参考資料
- 東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」(2023年3月31日)
https://www.jpx.co.jp/news/1020/20230331-01.html - 東京証券取引所「『資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応』のアップデートについて」(2026年4月28日)
https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/02.html


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