骨太方針2026から考える、中小企業は何に資源を配るか

PBRをROEとPERに分け、ROEを利益率、資産効率、財務レバレッジに分けてみた。同じ数字でも、会社の中身は違う。分解すると、次にどこを調べるかが変わる。

前回は、その数字の先にある「成長の道筋」と「経営資源の配分」を、コーポレートガバナンス・コードから考えた。

今回で、この連続企画を一区切りにする。

最後に考えたいのは、これから、どの事業へ人・金・時間を配るのかということ。

いま利益を生んでいる事業に、今後も同じように配ってよいのか。新しい事業を育てるなら、何を手掛かりに方向を決めるのか。

その材料として「骨太方針2026」を読んでみたい。

骨太方針は、国の資源配分を読む材料になる

正式名称は「経済財政運営と改革の基本方針」。政府が重視する政策と、予算編成へ向けた方向性を示す文書で、2026年版は7月21日に閣議決定された。[1]

全体は四つの柱で構成される。

柱主な内容
経済運営の基本的な考え方経済の現状認識、成長と財政の持続可能性
成長力の強化と安全・安心産業・地域への投資、人材、外交・安全保障、防災など
中長期の経済財政計画財政運営、社会保障、少子化、教育、社会資本、地方行財政など
当面の経済運営と翌年度予算足元の経済への対応と、2027年度の予算編成

今年は、政府が投資不足を課題として捉え、危機管理投資と成長投資を進める方針を示している。AI・半導体、資源・エネルギー、創薬・先端医療、フードテックなど、17の戦略分野も挙げられている。[2]

ここを「国が推す業界の一覧」として読むだけでは、自社との距離が大きい。

私が今回つなげたいのは、前回の資源配分への問い。国がどの課題へ予算や制度上の手段を向けようとしているか。その結果、自社を取り巻く需要や競争条件はどう変わり得るのか。

もちろん、政策と会社の戦略は同じではない。国が投資する分野でも、自社が利益を得られるとは限らない。政策は、将来を考える仮説の材料として使う。

17の戦略分野を、自社の仕事へ置き直す

17分野を具体的に見てみる。[2]

半導体工場を建てたり、新薬を開発したりする企業だけが、この一覧の読み手ではない。設備、部品、ソフトウェア、保守、流通など、各分野を支える仕事から、自社との接点を考えることもできる。

左欄は骨太方針にある正式な分野名。右欄は、私が考えた事業検討の入口であり、需要や受注を確認した事例ではない。

戦略分野自社の仕事とつながり得る接点の例
AI・半導体業務へのAI導入、製造装置の部品、検査・保守
デジタル・サイバーセキュリティシステムの運用、データ管理、取引先も含めた情報保護
情報通信通信設備の施工・保守、工場や施設の通信環境整備
量子研究機器の精密部品、計測・制御、実験設備への対応
防衛産業部品・材料の供給、製造設備や関連施設の維持
航空・宇宙精密加工、検査、衛星データを使った既存サービスの改善
海洋海洋機器の部材、観測機器の保守、調査データの利用
造船船舶の部品、修繕、船内設備の省エネ化
マテリアル(重要鉱物・部素材)材料の回収・選別、代替材料の加工、安定調達
合成生物学・バイオ培養・製造設備の部材、工程管理、分析支援
創薬・先端医療研究・医療機器の部品、製造支援、データ基盤の整備
資源・エネルギー安全保障・GX省エネ改修、設備の施工・保守、再生資源の活用
フュージョンエネルギー研究設備の材料・精密加工、計測・制御
防災・国土強靱化インフラ点検、補修、施設や事業の災害対策
港湾ロジスティクス荷役・倉庫の省力化、物流機器の保守、物流データ連携
フードテック食品機械、加工工程の改善、新規食品の製造・販売
コンテンツ制作支援、翻訳、海外販売、作品の権利を使った商品展開

もちろん、近そうに見える技術があっても、そのまま仕事にできるとは限らない。求められる品質、資格、取引条件、開発期間は分野ごとに違う。量子やフュージョンエネルギーのように、顧客が研究機関で、当面の市場が限られる可能性もある。

それでも、一覧の読み方は変えられる。

例えば、精密加工の技術があるなら、航空・宇宙、量子、医療と複数の接点が見える。そこですべてへ参入するのではなく、現在の設備で対応できる要求、既存顧客や紹介先との接点、継続受注の可能性を比べる。

地域の設備工事や保守を担っているなら、エネルギー、防災、情報通信などに接点があるかもしれない。新設工事を取りにいくのか、点検・保守を厚くするのかで、育てる人材も必要な道具も変わる。

一つの強みから複数の候補が見えるからこそ、資源配分の判断が必要になる。

接点がある分野の、どこへ資源を配るか

候補を選ぶときは、分野の名前に加え、次の三つを並べたい。

まず、需要がどこにあるか。誰のどんな困りごとに対して、誰が代金を払うのか。国の投資目標だけでなく、具体的な調達計画や顧客の設備更新を確かめる。

次に、自社の何が使えるか。現在の技術、顧客との関係、販路、現場の経験を使えるのか。それとも、新しい設備や資格、人材を一から揃える必要があるのか。

最後に、利益が残るまで何が必要か。認証や試作に時間がかかるのか。保守や改良の注文も見込めるのか。受注額だけでなく、対応費用と資金の回収時期まで見る。

政策の重点分野としては魅力的でも、自社では負担が大きすぎる候補もある。逆に、派手な技術を持たなくても、既存の顧客接点を使って、関連する仕事を増やせる可能性はある。

ここで検討する配分は、新しい設備だけではない。顧客を調べる時間、技術者の教育、品質管理、他社との共同対応なども含まれる。

いま稼げる事業と、次に資源を配る事業は一致するか

ここで、シリーズの最初に扱った数字へ戻る。

ROEは企業全体を見る指標で、分解すれば現在の利益率や資産の使い方が見える。そこから事業ごとの利益や使っている資源へ調べる対象を広げられるが、現在の数字だけでは、数年後に顧客から必要とされるかは分からない。

いま利益率が高くても、顧客の需要が縮んでいくなら、設備を増やす判断には慎重さが必要になる。反対に、立ち上げ期で利益が薄い事業でも、需要と自社の強みがつながり、利益を残せる見込みがあるなら、育てる候補になり得る。

だからといって、新しい事業を優先するとは限らない。既存事業を磨くほうが、顧客にも自社にも価値がある場合もある。

並べたいのは、いまの収益と、これからの需要だ。

自社の事業・商品群配分を考えるときの選択肢
現在の利益を支え、需要も続きそう必要な更新や改善を行い、収益源を維持する
需要の変化と自社の強みがつながりそう調査・試作・販売テストへ、限度を決めて資源を配る
資源を多く使うが、利益や将来性が弱い提供範囲、価格、取引先、継続の条件を見直す

これは自動的に答えが出る分類ではない。顧客への責任や、他の事業との関係もある。「利益が低いからやめる」で片付けることはできない。

それでも、すべてへ前年どおりに配る前に、増やすもの、維持するもの、減らすものを考える入口にはなる。

資金に余裕がない会社は、何から始められるか

長期戦略を考えることと、今すぐ大きな投資をすることは分けられる。

まず、主な事業や商品群について、現在の利益、使っている人・金・時間、数年先の顧客需要を並べる。需要は、政策を読んだ推測だけで埋めず、顧客の計画や実際の引き合いで確かめる。

次に、方向を決めるために不足している情報へ、小さく資源を配る。

新用途で売れるかを試す。価格や提供範囲を変えた場合の反応を確かめる。自社で設備を持つ場合と、他社と組む場合の採算を比べる。

試す時間も費用も必要だ。余力がなければ、やめられる作業や支出を探すところから始まる場合もある。何も減らさず新しい仕事を足すだけでは、長期戦略を動かす余力が残らない。

その先で、投資額、資金調達、支援制度、成果が出るまでの期間を検討する。政策に支援があることを理由に、需要や採算の確認を省くことはできない。

数字から、配分の選択へ

このシリーズで、企業を見る問いは少しずつ変わった。

PBRを分けて、収益性と市場の評価を見る。ROEを分けて、利益率、資産効率、財務構造を見る。その先で、会社の未来と資源配分を並べる。

最後に骨太方針を読むと、その未来を考える外部環境が加わる。

私が持ち帰りたいのは、国の方針に沿った事業なら正解だという答えではない。いまの数字を改善することと、将来の需要へ備えることを、同じ配分の議論に置けるかという問いだ。

来期、どこへ人を増やし、何へ金を使い、何に時間を割くのか。その配分は、いま稼げている理由と、これから選ばれる理由の両方を踏まえているだろうか。


自社の事業と資源配分を整理したい方へ

いま利益を生んでいる事業をどう維持するか。次に育てる事業へ、どこまで人・金・時間を配るか。

ありものリンクでは、財務の数字と事業の見通しを並べながら、事業の方向性や投資判断の整理をお手伝いしています。自社の場合を考えたい方は、お問い合わせください。

参考資料

[1] 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026」(2026年7月21日閣議決定)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2026/decision0721.html

[2] 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026」本文・概要。第1章、第2章、目次等。
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2026/2026_basicpolicies_ja.pdf
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2026/summary_ja.pdf

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