その事業計画の売上は、市場の何割を取る前提か

こんにちは、ありものリンク合同会社 業務執行社員CFOの中島健陽です。

新規事業の計画書、買収の検討レポート、設備投資の稟議。こうした資料は、たいてい右肩上がりの売上グラフから始まる。3年後にはこの数字、5年後にはここまで――。きれいに積み上がった棒グラフを見せられると、つい引き込まれる。

ただ、私はその数字を一度、市場の大きさから割り戻してみることにしている。理由は単純で、事業計画の売上は、作り手の願望に寄りやすいから。これは誰かを責める話ではない。私自身、自分の事業の数字をつくるときは、無意識に都合よく見ている。人は、進めたいものほど前向きに数字を置く。

「作れば売れる」のまま、売上だけが積み上がる

推進したい側がつくる計画には、ある共通した形がある。良いモノさえできれば売れる、という前提のまま、売上だけが先に積み上がっていること。

そこに抜けているのは、「その売上は、市場全体のどれだけを取る計算になっているのか」という視点。月にこれだけ売れる、年でこれだけ、という数字は出ていても、それが市場のどの位置を占めるのかは、意外と語られない。

市場を三つに分けて、割り戻す

そこで私は、市場を三つの層に分けて見ることにしている。

ひとつ目が、その商品が理屈の上で対象にできる市場全体。これをTAM(Total Addressable Market)と呼ぶ。ふたつ目が、そのうち自社が現実にアクセスできる範囲。地域やチャネル、価格帯で絞り込まれた、手の届く市場。これがSAM(Serviceable Available Market)。三つ目が、そのSAMの中で実際に自社が取れるであろうシェア。競合がいて、営業の手も限られる中で、現実に獲得できる分。これがSOM(Serviceable Obtainable Market)。

この順で割り戻していくと、計画の売上が、その市場の半分を一社で取る前提になっていた、ということが珍しくない。市場の過半を一社が握るのは、極めて例外的な状況でしか起きない。

だから私は、こう確認する。「この計画どおりに売上を出すには、市場のおよそ半分を取ることになりますが、それは現実的でしょうか」と。これは相手を否定するためではなく、事業を前に進めるために、数字の前提を一緒に点検する作業。前提が点検されないまま走り出した計画は、後から無理が表面化する。最初に数字の置き方を見直しておくほうが、結局は早い。

買収や提携でも、見る場所は変わる

同じ姿勢は、買収や提携でも効く。ただし、見る場所が少し変わる。

買収では、相手は当然、自社の事業に高い値をつけて売りたい。将来への期待や相乗効果を見込んで、実力以上の価格が提示されることも多い。だから事業の将来性を市場から割り戻すのと同時に、自社の時価総額や調達余力に照らして、ここまでなら払える、という上限を引いておく。事業としての魅力と、自社が払える額は、別の問題。

提携の場合は、単にこちらが一方的に条件を押し付ける、という話ではない。ただし、自社として絶対に譲れない線――たとえば自社の技術やノウハウをどこまで開示するか――は、内部にきちんと引いておく。そのうえで、提携自体は両社の合意で成り立つので、論点は双方の歩み寄りによる交渉条件に移る。独占にするのかしないのか、知財の扱い、費用の負担割合、期限、そしてどうなったら解除できるのか。こうした条件を契約にどう落とすかが、提携の現実味を決める。

提案を受ける側の、ひとつの問い

これは大企業だけの話ではない。新しい事業、大きな設備投資、取引先からのM&Aの誘い。提案してくる側は、社内の担当であれ外部の業者であれ、それを通したいから、数字は前向きに寄る。繰り返すが、能力やモラルの問題ではなく、人がそうできているというだけ。

だからこそ、提案を受けたときに、市場から一度割り戻す一問が効く。「この売上は、市場のどれくらいを取る前提になっていますか」。この一問だけで、計画の現実味はずいぶん見えてくる。

私自身、自分の事業の数字を、つい都合よく見てしまう。だから第三者の目で市場から割り戻してもらうと、毎回ひやりとする。

あなたの手元にある計画の売上は、市場のどれくらいのシェアを取る前提に、なっているだろうか。


来週は読書ノート。鳥の鳴き声に「文法」があるという発見から、組織の中で情報が本当に伝わるとはどういうことかを考えます。

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