「経営企画は要らない」と言う社長へ──家族経営で判断を共有すべき場面
こんにちは、中島です。
先週のラボCFOで、長期計画は書き直す前提で持っておく仮説、という話を書きました。今週は経営者からの一問。長期計画や経営企画の話をすると、たまに返ってくる声があります。
「うちは家族でやっているから、経営企画までは要らないよ」
この声には筋が通っています。
大企業の経営企画は、戦略、予算、投資判断、業績管理などを通じて、複数の役員や部門による意思決定を支えています。合議で動く前提の会社だからこそ、この機能が要る、という側面があります。
一方、家族経営や小規模企業は、大企業ほど多層的な合議や、複数部門をまたぐ調整を必要としない会社も多い。大企業と同じ経営企画部門を作れ、という話であれば、要らない、で合っています。
社長側からの反論も、大半は現場の実感として理解できます。言語化に時間をかけるほどの効果はない。案件ごとに事情が違うから、標準化すると判断を誤る。後継者には文書ではなく実務で覚えさせている。税理士や幹部との対話で足りている。将来の承継より、今日の受注や資金繰りの方が重要。私自身、大企業の中で経営企画に長く関わっていますが、この機能をそのまま持ってくれば済む、というほど話は単純ではない、というのは同意します。
それでも問題になる場面
ただ、社長以外の人が判断に関わる場面が近づくと、状況が変わることがあります。
一つ目、承継。後継者や親族、社内の幹部に事業を渡す準備が始まったとき、値決めや取引先ごとの対応の理由を、実務の付き添いだけでは伝えきれないことがあります。頻度が低く、後継者や幹部が経験する機会の少ない判断ほど、実務の中で自然には登場しにくい。
二つ目、資金調達。金融機関や新しい株主に事業計画を出すとき、社長が口頭で語る事業の魅力と、書類上の数字の説得力の間に、思ったよりも距離があると気づく場面が出てきます。
三つ目、社長不在。急な入院、長期の出張、事故。判断が社長に集中していると、その間の意思決定が止まります。日々の判断件数が多い会社では、止まっている時間の損失が積み上がります。
これらに共通するのは、社長以外の人が、社長の判断の理由を理解して、そこに関わる必要が出てくる、ということです。逆に言えば、承継や資金調達の予定がなく、社長への判断集中による遅れや負担も生じていないなら、優先順位は下がります。会社ごとに違っていい。
文書化すれば解決するわけではない
「では判断理由を文書に残しましょう」と話が進みがちですが、そう単純にはいきません。
社長の判断には、経験、相手との関係、市場の空気、その日の会話の流れ、といった文章にしにくい情報が含まれます。値決めのマニュアルを作っても、次の案件はまた別の個別事情を抱えて出てきます。
判断の理由を後継者や幹部に伝えるには、文書だけでは足りません。実際の案件を一緒に判断する、判断のあとに例外を確認する、結果を一定期間後に検証する、後継者自身の判断基準に少しずつ書き直していく――こうした過程も要ります。文書は、そのやり取りの手掛かりを残す道具であって、それ自体が答えではない。
もう一つ書いておきたいのは、大企業の経営企画がやっている「数字への落とし込み」も、中立な作業ではないということ。何を数字にして、何を数字にしないか、どの基準で比較するかによって、判断の結論は変わります。数字にした瞬間、抜け落ちる情報も出てきます。だから経営企画を「公平な橋渡し役」として持ち上げるのも、少し違います。私自身、資料を作る過程で、どこを強調するかで結論が動いてしまうことに何度も直面しています。
何を共有し、何を社長に残すか
すべての判断を仕組みにする必要はありません。頻度が低く、影響も小さく、社長が短時間で処理できる判断まで書き出そうとすると、そのコストの方が損失を上回ります。
共有する対象を選ぶときに、頭の中で確かめられる問いを、いくつか挙げます。
• 社長が休んだら止まる判断か。止まっても翌日で構わないなら、優先度は下がる
• 同じ条件でも、担当者によって結論が変わってしまう仕事か
• 幹部や後継者が、その判断の「結論」ではなく「理由」を説明できるか
• 判断が繰り返される種類か、一度きりの個別対応か
• 記録や振り返りに使う時間が、放置した場合の損失に見合うか
この5つに答えてみるだけでも、優先順位はかなり見えてきます。すべての判断を平らに扱わない、というのが出発点になります。
社内でできること、外を借りるかどうか
社内でできる方法から先に検討したほうが、費用対効果が高いことが多い。後継者や幹部と、月に一度、大口の案件だけを振り返る時間を持つ。判断案を先に幹部に出してもらい、社長がその案にコメントを返す形にする。税理士や金融機関との定例の対話を、判断の材料集めの場として使う。重要案件だけ、判断理由を一行、メモに残す。
これで足りるなら、それで構いません。
社内では問い返しにくい場合や、資金調達、承継、M&Aのように専門性を要する場面では、外部の助言者に関与してもらう選択肢はあります。ただし外部者にも弱点があります。現場や人間関係の理解に時間がかかる。社長の説明に引っ張られる。文書作成が目的化して、社内の幹部が置き去りになる。使うにしても、目的と期間を先に決めて、社内で担う部分と外に頼む部分を分けておくのが安全です。
結び
大企業の経営企画部門を、そのまま家族経営や小規模企業に持ち込む必要はありません。「うちは要らない」と言う経営者の判断には、多くの場合、筋が通っています。
ただ、承継、資金調達、権限移譲、社長不在――社長以外の人が判断に関わる場面が近づいたときには、どの判断を共有し、どの判断は社長のままにしておくか、を選び直す時期になります。目指したいのは、社長の判断を「正解」として保存することではなく、他の人がその理由を理解して、必要なら書き換えられる状態にしておくこと。
まずは、繰り返し起きる重要な判断を一つ選び、結論だけでなく、何を見て決めたのかを後継者や幹部と振り返る。そこからで十分です。
【来週予告】
来週は読書ノート。この3ヶ月で読んだ12冊の中から、中小企業の経営者にいちばん薦めたい3冊を選んで書きます。

